ハイキング旅行から帰った後,ふたたびACC(カナダ山岳会)へと赴き,初期のCAJ(カナディアンアルパインジャーナル)を借りて片端からめくっていった。
この山域が記録の上で最初に現れるのはCAJ3号(1911年)である。これは著名な生理学者であり極地探検家であったDr.T.G.ロングスタッフが,ACCの創設者であるA.O.ウィーラーらと共にパセール山脈の踏査を行った記録である。バガブーリバーからバガブーパスを越えてハウザークリークを下り,現在のクートネイレイクに抜けている。今日,困難なアルパインルートを数多く有することで世界的に有名になったバガブーはこのとき初めて発見されたといってもいい。ただし高峰および氷河登山に関心が高かったその当時にあっては,それ以後バガブーよりも標高が高いパセール山脈南部の山々に目が向けられることになった。1914年 パセール山脈の最高峰であるマウント・ファーナムがA.H.マッカーシーらによって初登頂される。 1915年-1916年 W.E.ストーンらによってホースシーフクリークおよびトビークリーク流域の踏査および主要な山の登頂が行われた。 この1916年のW.E.ストーン氏の記録の最後に添付された地図を見たとき,全ての疑問が氷解した。その地図にはマウント・ブルースという名前がはっきりと記されていた。それは現在,アイブロウ・ピークと呼ばれている山であった。 「昨今,山の名前が変わることは悲しい哉そう珍しいことではない」,と前述のロングスタッフ氏がその記録の中で述べている。さらにアイブロウ・ピークの名前を付けたのが彼とA.O.ウィーラーなのである。彼らはその名前を暫定的なもの,と断り書きをしており,マウント・ブルースという名前に変えられたとしてもちっとも不思議はない。ただ,その後何らかの理由で旧名のアイブロウ・ピークに戻されたのであろう。 ところで,これらの記録を読み進めていくうちに,意外な人物の名前を発見した。それは1913年にカナディアン・ロッキーの最高峰「マウント・ロブソン」(写真右)を初登頂し,一躍カナダで最も有名なガイドになったオーストリア人ガイドの『コンラッド・ケイン(1883 - 1934)』である。彼が北米山岳史に名を残した大きな理由は,この当時,スイス人ガイドの多くがカナダ大陸横断鉄道の経営するホテルに泊まり,その宿泊客を連れて何度も同じコースばかり登る“ミルク・ラン(牛乳配達)”を好んだのに対し,ケインは困難でも未だ誰も足を踏み入れたことのない山域に行くことを好んだからである。それはロブソン登頂以降,彼の常雇い主となったA.H.マッカーシーの優れた能力に負うところも大きく,彼らのコンビが数々の名ルートを作り出したといっても過言ではない。 驚いたことに,1909年にカナダにやってきたばかりのコンラッド・ケインは,上記のパセールに関わる記録全てにガイドとして付き添っているのである。彼の他の有名な業績にバガブースパイアーおよびマウント・ルイスの初登頂があるが,それが行われたのが1916年,まさに彼の黄金期を貫くようにしてこの一連のパセール山脈の遠征が行われている。彼はパセール山脈が好きだったらしく,1917年にふもとのコロンビアバレーに農場を買い,その後何度もパセールに通っている。そして今もなお,山麓の町クランブルックに眠り続けているのである。また,コンラッド・ケインは1928年のACCキャンプに参加した,と彼の追悼文に記されている。北田氏はおそらくコンラッド・ケインの姿を見たことであろう。アイブロウ・ピークは1915年に彼によって初登頂されているので,登頂前に彼から情報を得ていたかもしれない。 単身日本からやってきて,並み居る外国人に混じり,日本にはない氷河を持つ山に登ることは当時としては並大抵のことではなかったであろう。初登頂ではなかったが見事,約3,300mの山の登頂を果たした北田正三氏に敬意を称したい。氏は昭和33年7月22日,熊本県山岳連盟会長を務められていた時,阿蘇高岳鷲ヶ峰で滑落死されたそうである。氏のご冥福をお祈りいたします。 2003年9月18日 「未踏峰を登頂した日本人の軌跡を訪ねて」Part 1 「未踏峰を登頂した日本人の軌跡を訪ねて」Part 2 「未踏峰を登頂した日本人の軌跡を訪ねて」Part 3 「未踏峰を登頂した日本人の軌跡を訪ねて」Part 4 ↑アウトドアブログのランキングに参加しました。 サイト上位を目指しております。一票(クリック)のご協力をお願いします!
by ymtours
| 2007-05-10 04:09
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