~Yamnuska Mountain Skills Semesterを受講して感じたこと~ (記)関内 陽

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 私は2019年の冬に初めてカナディアンロッキーを訪れ、その年の春にYamnuska Mountain Skills Semester(ヤムナスカ・マウンテンスキル・セメスター)というプログラムに参加しました。そこで得た経験や感想を自分自身の記録として残したいと思い、このブログを書くことにしました。ここに書く内容は私個人として感じた内容や感想であり、実際のそれとは異なる可能性があるということをご承知おきください。

 
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2019年春のセメスターメンバー

 私が受講したYamnuska Mountain Skills Semesterとは、Yamnuska Mountain Adventuresが主催する北米で40年以上の歴史がある登山学校です。春と秋に毎年一回ずつ、年2回開催され、期間は約3か月間で行われます。アイス(ミックス)クライミング、ロッククライミング、スキーマウンテニアリング、アルパインマウンテニアリング(ロック、アイス)などといった登山に関するほぼすべてのベーシックスキル講習に加え、80時間のウィルダネスファーストエイド(WFR)、Avalanche Skills Training1&2、Interpretative Guides AssociationのApprentice Interpreter Accreditation資格、をコース内で受講することができ、試験に通過すれば資格を取得することができます。また、最後にセメスターの卒業証明書がもらえます。

 コースの人数は最大で12名。私が参加した回も12名の参加者があり、カナダ、オランダ、ドイツ、ブラジル、日本の18歳から38歳までと、国籍も年齢も幅広いチームでした。参加費は年や季節によっても若干変わってきますが、約13,500カナダドルほどで、決して安い金額ではありません。

 私が今年このセメスターを受講するまでには様々な葛藤があったり、実際受講する直前に日本で大怪我をしてしまったことで参加を延期せざるを得なかったりと、実際に参加したいと思い始めてから3年以上の月日が経ってからやっとの思いで参加することができました。そんなセメスターを私が受講した中で色々と感じたことを共有させていただきたいと思います。


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スキーマウンテニアリング講習

 まず私がこのコースを受けて良かったと思う点は、(1)カナディアンロッキーという最高のロケーションの中で、3か月間ほぼ毎日山に入りながら、ノースアメリカのガイディングや登山のスタンダードが学べる。(2)自分次第でコース内で学べることは大きく変わり、学べる幅が無限大にある。(3)母国語が英語ではない人にとってはとても良質な語学学校となりうる。という3点です。

 カナディアンロッキーはその昔海底にあった地層がプレートの活動によって隆起し、氷河や気候によって岩壁が削りとられたことにより今のような荒々しい山容になりました。標高こそヒマラヤやヨーロッパアルプスに比べて高くはありませんが、カナディアンロッキーの山々に登頂するためにはアルパインスタイルをベースとした登山スキルが必要になります。

 また、日本のように登山道がきちんと整備されていたり、標識がたくさんあったりということが少なく、場合によってはかなり難しいルートファインディングを必要とする山も多いです。国立・州立公園に指定されている山域が非常に多く、駐車場からのアプローチが長かったり、手つかずの自然がそのまま残っていたりため冒険的要素が多くあり、本当の意味で登山をする知識や技術が問われる山域、と言えるでしょう。

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氷河上の雪面をスキー滑走する。


 カナディアンロッキーには多くの氷河が存在し、日本と違い多くの山に行くにあたり氷河における知識と技術が必要になる、という点でも日本で登山をするそれとは異なるでしょう。また、カナディアンロッキーは世界的にアイスクライミングのメッカとして知られており、冬は本当に上質なアイスクライミングが堪能できます。そういったことをすべて踏まえて、カナディアンロッキーは山を学ぶ上で「最高のフィールド」だと感じますし、このフィールドの中で山のことだけを考えて過ごす3か月間は本当に価値のある時間だったと思います。

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アイスクライミング・プログラム

 このセメスターのインストラクターを担当するガイド達は、Yamnuska Mountain Adventuresに所属するACMG(Association of Canadian Mountain Guides・カナダ山岳ガイド協会)やIFMGA(International Federation of Mountain Guides Associations・国際山岳ガイド協会)に所属するアルパインガイド、マウンテンガイド達です。

 ワールドスタンダードを満たしたハイレベルなガイド達に教えてもらいながら過ごす3か月間は、本当に贅沢な時間だったと思います。基本的にはそれぞれのショートセクションの中でそれぞれのインストラクターがクラス全体へのコーチングを行い、実際に様々なスキルや知識を身に付けていくのですが、自分が疑問に思ったことや、もっとハイレベルなことを学びたいと思った時には個人的に聞いて教えてもらうことができますし、それだけプラスアルファの知識・技術を身に付けることができます。

 私はこの3か月のセメスターの中でこうして個別にガイド達に質問を投げかけることで得た知識技術や経験がたくさんあったと感じます。それだけ自分から能動的に働きかけることで、同じ3か月間を過ごす中で学ぶことができる内容は大きく変わってくると感じましたし、母国語を英語としない私にとっては英語を積極的に活かすいい経験になったと思います。

 また、このコースはもちろんすべて英語で行われますし、コースの途中にある様々な試験などもすべて英語で行われます。私のような英語を母国語としない人にとっては言語面でいうとかなりハードルの高いものでしたが、私自身このコースを通じてかなり英語が上達したという感覚がありました。

 英語を、自分が興味のある「山」というツールを使って学ぶことは記憶にとても定着しやすいなと感じましたし、お互いにロープを繋ぎ合う仲間同士、英語でのコミュニケーションがうまくいかないと命に関わってきますから、こちらも必死に勉強せざるを得なくなります。(笑)

 いずれにせよ、実際のインストラクションを理解しようとしたり、クラスメイトとコミュニケーションをと取ろうとしたり、自分がもっと学びたいと思うことを英語で表現しようとしたりする過程を通じて、生きた英語を学べる、という点でこのセメスターは自分自身にとって良質な語学学校になったと感じました。

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素晴らしいガイド達の元で技術を学ぶ

 では、実際に何を学んだのかという話になりますが、実際に山というフィールドの中で様々なアクティビティを通じて活動をする中で一番大切なことは、「常に自問自答しながら危険を回避する方法を考える」、ということを今回のセメスターで一番学んだように思います。

 先にも述べたようにカナディアンロッキーでの登山は本当の意味で冒険的要素が多く含まれる登山が求められるため、それだけにリスクも必然的に高くなってきます。気温や天候によるリスクはもちろんのこと、岩が総じてもろいため落石や滑落のリスク、野生動物や冬であれば雪崩など、挙げればきりがないほどリスクは潜在的に存在します。

 特に雪崩に関しては、カナディアンロッキーは乾燥していて気温がとても低いため日本とは比べ物にならないほど頻発して起こります。では、カナダのガイドがいかにしてこのようなリスクを回避しているのか。リスクマネジメントという枠で話をすると広義的すぎるので、今回は「雪崩」というリスクに焦点を当てて考えようと思いますが、雪崩というのは本当に様々な要因が複雑に絡み合って起こる自然の猛威です。

 
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 自然は人間のことを考えてなんてくれませんし、本当にきちんと準備をしなければ容赦なく襲い掛かってきます。だからこそガイドはどんなに経験があっても、経験だけに頼るのではなく、天候や地形、風向きや風の強さ、過去の記録など、本当に様々なことを考慮して活動する場所の時間ごとの様子や、起こりうることについて予測を立てます。

 実際のガイディングでは朝と晩にガイドミーティングと言って、天候のオブザベーションをし、様々な起こりうる雪崩の種類や斜面方位、大きさなどの予測を立てるとともに、その日に考慮すべきリスクやそれに対する対策を考え、それを話し合います。もちろん何となく、で決めるのではなく、すべての要素における「理由」をきちんと考えて事細かく予測を立てます。

 
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ガイドミーティングシート(冬季)

 
 もちろんこれはあくまで予測であり、実際に予期していなかったことが起こることもあり得ますが、予測の段階と実際の現場も含めてすべての場面で、この「理由を考えて、次、もしくは明日、何が、どんなことが起こるのかを考える」というプロセスが山でリスクマネジメントをしていく上でとても重要なことなのだと知りました。

 一見当たり前のことのように感じられることかもしれませんが、実際にこれをきちんとやることはとても労力のかかることです。しかし、カナダのガイド達はこれをもっともっと深く考えて、リスクがとてつもなく多いロッキーにおいて日々クライアントを山で安全にガイドできるように、自問自答しながら考えているのです。これはガイドに関わらず、自立して山を登っていく上ではとても大切なことだと思います。山登りは本当に素晴らしい活動ですが、一方で簡単に命を落としてしまうこともできるアクティビティです。「リスクマネジメント」という言葉は日本でもよく耳にする言葉ですが、今回は本当の意味でのリスクマネジメントを学べたように思います。
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 本当に贅沢な環境と素晴らしいインストラクターの元でどっぷり山を学ぶことができ、かつ英語まで勉強できてしまうというこのセメスターにおいて、じゃあ逆に何が良くなかったの、という話ですが、このセメスターに参加することにおいては登山経験を一切必要としません。実際に私が参加した回にも1-2人、ほとんど山の経験がない状態で受けている人もいました。

 また、受講する理由も人それぞれで、もちろんそれに合わせてそれぞれのセメスターに対するモチベーションは大きく異なります。なので、全体に向けたインストラクターのインストラクションも必然的に全員が理解しやすいような内容になりやすい傾向にあります。先にも述べたように、自分次第で個々にインストラクターにアプローチすることで学べる内容は大きく変わってきますが、かなり山をやり込んできた人間にとってはすこしもどかしさや物足らなさを感じることがあるかもしれません。

 また、世界中から12名もの人が集まれば、それは本当に個性豊かな人が集まりやすく、3か月も一緒に生活すればお互いの悪いところも見えてきますし、時には日本人では考えられないような行動を取る人もいます(詳細は控えますが。。。)だからこそ協調性は本当に重要ですし、人によってはこのような学びのスタイルが合わない、という人ももちろんいるでしょう。ただ、そういう面もすべて含めて価値のある経験になったと私は思います。

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 長くなりましたが、このセメスターでは本当に多くのことを学び、そして本当に多くの経験を積むことができました。また非常にラッキーなことに、このセメスターが終わった後もカナディアンロッキーを中心に山に登る経験を継続して積むことができ、9月にはACMGのガイド試験にチャレンジするチャンスも与えられました。これからの私の山人生においてこのセメスターで学んだことが根幹を成すということは言うまでもありませんが、ここで学んだこと、感じたことを無駄にすることのないようにこれからも大好きな山に登り続けていきたいと思います。

 記:関内 陽(せきうち よう)
2019年9月30日

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by ymtours | 2019-10-10 05:18 | 山旅の豆知識や魅力 | Comments(0)


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