マウント・アシニボイン登頂記

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こんにちはガイド・栗原です。

今回はガイドではなく見習いガイド、通訳、クライミングアシストとして、サチコさん、チズコさんのお二人と共にマウント・アシニボインに行ってきました。ガイドはヤムナスカのマウンテンガイド、グラントとパディー。グラントは大ベテラン、そしてパディーはあと二つ資格を取れば国際ガイドになる、という若手のホープ。出発前日にはパディーと私でお二人をキャンモアそばの岩場を案内し、プレトレーニングも行いました。

北米のマッターホルン。

そんな異名を持つアシニボインは、大陸分水嶺、アルバータ州とBC州の州境に位置しています。標高は3618m。麓のレイク・マゴックからは1525mの高さで聳え立っています。湖を前にしたその秀麗な姿はあまりにも有名でしょう。

この山にアシニボインという先住民族の名を付けたのは1885年前後地図製作のためにカナディアンロッキーを訪れていた、ジョージ・ドーソン氏。バンフのそばのピークへ登った氏が、頂から雲がたなびくその姿を見て、アシニボイン族のティピ(テント)からたなびく煙を思い出し、そう命名したそうです。同じ様な姿は今でもよく見ることができます。

そのピークへの道でもっとも一般的なのが北稜。今回はこれを狙います。

まずは北面のすぐしたにあるハインドハットへ。”Gmoser's High Way”というハイウェイらしからぬトレイルを慎重にたどり、ハインドハットへ行くまでは約4時間ほどかかりました。雨は止んでいましたが、シャワークライミングのような場所もあり緊張します。ハインドハットにはほかのガイドパーティーや個人できたクライマーなどでとても賑わっていました。
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翌日は天候が悪いのでハットの裏にあるマウント・ストロームにて足慣らし。ガイドとのロープワークに慣れたり、ミックス状態の登降に慣れ、アシニボインの良いシュミレーションとなりました。この日はお二人とも早目に寝袋に入り、翌日のためにゆっくりと休養を取りました。
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そして挑戦の日。

朝2時半に起床。手早く朝食と準備を済ませ3時20分にハットを出発しました。星星が瞬き、きりっとした空気が気持ちよい深夜です。ロープオーダーはグラント、チズコさん、私。そしてパディーとサチコさん。着かず離れずの距離を保ち、落石に注意しながら進みます。
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写真でも分かる通りコンディションは難しい状態。年によってはほとんどクランポンを履かない年もありますが、今回は最初からクランポンを履き、ミックスクライミングになりました。
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核心部のグレイバンド、レッドバンドでは薄氷にフロントポインティング、チムニーで微妙なステミングなどを強いられます。しかし、こういうクライミング経験の少ないチズコさんが、怖がりながらも割とスムーズにこなして行くのを見てとても感心しました。サチコさんもパディーにリードされながらスムーズに進んでゆきます。
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上部ではいよいよ細く傾斜の増してくる北稜沿いを進みます。快晴だった天気も次第に下り坂になり、緊張感が増してきます。長い長い北稜を登りきりやっと頂上稜線に飛び出したのが10時40分。そしてまるで冬のような頂上に着いたのが11時20分。丁度8時間かかりました。思わず涙声になるチズコさん。私も目頭が熱くなりました。しかし、ゆっくりもしてられません。すぐに下りです。
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下りではグラントとパディーがショートローピング、ローワーリングを駆使して難しいダウンクライミングをサポート。私はルートファインディングしながらチズコさんのアシスト。しかし安全と引き換えに下りはスピードが落ちます。グレイバンドを降りたあともチズコさんの足の痛み、他パーティーとのアンカーの共有などで時間はどんどん進んで行きます。一度持ち直した天気もまた下り坂を転がり落ち、激しい風と雹、雨が降ります。腰にぶら下げていたアイスアックスが帯電し始めた時はかなり緊張しました。
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そんな厳しい下降を経てハインドハットにたどり着いたのが夜の9時40分。実に18時間を越える登攀となりました。ぎりぎりまで気力・体力を振り絞ったチズコさん、常に冷静さを保ち、疲れてもしっかりと行動されたサチコさん、お二人の頑張りに一緒に行動していたほかのパーティーのガイドも”日本人はタフだ”と感心していたほどです。夕食もほどほどにお二人とも泥のように眠りについていました。私もまるで丸太のように眠ったのは言うまでもありません。本当にタフな一日でした。

翌日、チズコさんの足首が悪化してしまったのでハインドハットから直接ヘリでピックアップしてもらい、あっと言う間に車のあるヘリパッドへ到着しました。ヘリの窓から見えるアシニボインはそのときも山頂に雲をまとわりつかせ、遠くからでもその威容を見せ付けているようでした。
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マッターホルンよりも難しい、北米のマッターホルン。そのマウントアシニボインのタフな一日にご一緒にさせていただき、共に山頂に立てたことをとても嬉しく思います。お二人の山人生の大きな記念になれば、私にとっても嬉しい限りです。

栗原 治郎 (Yamnuska Guide)

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by ymtours | 2008-08-06 03:40 | カナダの山旅


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